キジバトの来訪



庭に出ると、青葉が一面に落ちていた。
公園から飛んできた楠の小枝も、そこここに散らばっている。金木犀の下には、黄金の絨毯を敷き詰めたように、花が散っていた。
台風22号の仕業である。昨夜、速度を上げて、関東地方を通り抜けていったのだ。観測史上最大級の勢力だと、朝のテレビのニュースは報じていた。眺める庭は、たいした被害を被らなかったのが幸いである。
台風対策のために、倒れないようにとロープで結び付けた、並んだ鉢植えを見て回る。すると、鉢の隅の方で何かが動いていた。腰を屈めて近づいて見ると、それはキジバトだった。2羽が寄り添うようにしており、どちらも子鳩だ。
さらに近づくと、丸い眼をこちらに向けつつ、おぼつかない足取りで歩きだした。飛び石伝いに行くが、飛び立とうとはしない。いや、2羽とも飛ぶ元気がないようだ。
「カラスにやられたのかな……それとも、昨夜の台風か?」と、しばし子鳩たちを眺めていた。
体には、傷はないようだ。とすると、きっと昨夜の強風雨に、傷めつけられたに違いない。
我が家の隣の公園には、楠の大木がある。その樹には、キジバトが巣作りをしていた。きっとそこで生まれ育ち、巣立ちしたばかりの子鳩たちなのだろう。
体を寄せ合った兄弟、いや姉妹? は、足を止めて、ぱっちり見開いた4つの目を、わたしに向けている。
朝食を終えてから、子鳩たちを案じて庭に出た。先ほどと同じ柿の木の下でうずくまっていた。近づくと、2羽は立ち上がるが、飛び立つ元気がないようだ。
食べるかどうか分からないが、昨夜の台風で落ちたザクロの実が近くにあったので、粒を取り出して辺りに撒いた。
昼時に、柿を食べているときだ。ふと、子鳩たちを思い出して、庭に出た。
柿の木の下に、子鳩たちはうずくまっていた。
わたしはそっと近づいて、食べかけの柿を、子鳩たちの近くへ置いた。瞬間、お互いの体を押し合うように、モゾモゾさせていたが、すぐに体を落ちつけた。わたしが危害を加えない人間だと判断したのか、身じろぎもせずに愛らしい4つの目を、こちらに向けている。
陽がだいぶ傾いたころ、居間で庭を眺めながら、女房と晩酌をしていた。窓越しから子鳩たちを見ると、梅の木の傍にある庭石周りで、餌を啄んでいた。
「元気になってよかった!」と思った反面、通り抜ける猫が多い我が家の庭。「やられやしまいか?」と、思わず眉間を引きつらせてしまった。
翌朝、ウォーキング前に、庭を見回ってみる。子鳩たちの姿は見渡らなかった。散乱した羽もないので、ほっとした。
そんな折、小雨が降り出したのでウォーキングを中止して、やや早い朝食にする。
テレビのニュースを見ながらテーブルに向っていたとき、庭の方で羽音がした。箸を置いて、そっとガラス戸に近づいて外を見る。女房も、後に付いてきた。
なんと、子鳩たちが飛び回っているではないか。それに、一回り大きい親鳩も一緒である。百日紅からザクロの枝に止まった。
雨から、身をを守ってあげているのだろう、子鳩の間に入った親鳩は、両翼を大きく広げて2羽の子鳩を抱え込んでいる。
そんな姿を眺めていると、思わず胸が熱くなってきた。
「子鳩を庇ってやったので、親と一緒にお礼に来たのね!」
妻の言葉に、わたしは頷いた。




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