ユズの恵み



一年のうちでも、昼が最も短い冬至。今年は12月22日だ。この日は、ユズ湯に浸かって英気を養う日でもある。
我が家の庭に実ったユズを取って湯に浮かべ、5月の菖蒲湯と同じように、そんな習慣を毎年楽しんでいる。
ユズ湯の信仰というのは、中国の五行説からきているそうだ。黄色が「魔除け」「災い除け」になるという。
それに、冬至を「湯治」に、ユズを「融通」にかけて、「うまく世渡りを」との日本人好みの縁起に結び付けてもいるのだ。
また冬至には、カボチャを食べる。この習慣は、中気や風邪除けに効くからだという。
ユズ湯もカボチャも、どちらも健康のために効用である。ちなみにユズの花言葉は「健康美」だそうだ。
我が家の庭のユズは、今年もたくさん実った。「実物は一年おき」との言葉は、この小さな木には当てはまらず、毎年鈴生りになる。冬至に合わせて、近所の家々にお裾分けできるほどだ。
風が吹くと、「枝が折れるのでは?」と思われるほど、木は大きく揺れている。たわわに実った、黄金色のそんな実を眺めていると、心の中のもう一人の呑兵衛が呟いた。
「ユズ割りにすると、何杯できるかな?」
わたしは頷きつつ、ニンマリとした。
どちらかというと、我が家で実ったユズは、湯に入れるよりも焼酎割りの方に軍配を上げてします。この木を植えたのも、その目的が第一だったのだから。
これでは、喜ぶのは胃袋(?)だけだ。健康に良い冬至の日の効用を果たせなくて、むしろ呑み過ぎの黄信号が点滅する。
ところで、我が家の「冬至梅」。名前からすると、今ごろ咲き始める梅である。明日の冬至の日には、冬至梅の花を眺めながら、ユズ割りで一杯やりたかった。でも蕾も小さいし、しょせん無理な話だ。もっとも、ユズ湯上がりのユズ割り一杯の方が、もっと楽しみだ。
「冬至の前夜祭」なんて言葉は、聞いたこともない。でも、呑兵衛の意地汚さから、何のかのと屁理屈をこねて、酒に結びつけてしまうものだ。
前夜祭と表して、わたしは黄金色の実を絞り、ユズ割り焼酎を作った。
テーブルの向いにいる、女房のワイン・グラスと合わせて乾杯する。
わたしのグラスは鈍い音だが、ワイン・グラスの音だけが、心地好く響き渡っていった。
微酔いになってきたころ、ふと、わたしはユズと焼酎の歴史が知りたくなった。
パソコンをテーブルの脇に持ってきて、調べてみる。
思っていたより、ユズの栽培の歴史は古いことが分かった。ユズは、中国の西域から揚子江上流辺りが原産であるらしい。日本では、飛鳥・奈良時代に栽培されていたという。
焼酎の方は、日本で造られたのは十六世紀ごろだった。1549年に、薩摩国に上陸した宣教師フランシスコ・ザビエルは、当時の日本人が、蒸留酒を常飲していたと書いているそうだ。
古くは、「あらき酒」とか「蘭引」の名で呼ばれており、英語では「アラック」と、アジア地域の蒸留酒を総称したという。
そういえばスリランカを旅したときに、ヤシ酒を蒸留した、アラックという銘柄のウイスキーを呑んだことがある。きっとこの酒が、厳密には焼酎の種類だったのかも知れない。
呑兵衛が、呑みながらパソコンでの勉強なので、素面になるとすっかり忘れてしまうだろう。早速、内容をプリント・アウトしておく。
ユズは世界的に見て、生産も消費も我が国が最大だという。
むろんわたしも、貢献(?)している一人ではある。でも、総てが自己生産なので、生産の指数には含まれてはいないだろう。
すでにパソコンを止めて、三杯目のユズを絞っているところだ。
呑み過ぎにご用心、ご用心!




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