トルコのレストランにて


ベルガマの町のレストランは、混み合っていた。昼食はバイキング式料理で、好きなものが食べられる。グラス・ワインを注文して寛いでいると、背後から声がした。何度も同じことを言っていたのは、若いボーイだった。わたしと目が合うと、ニコリとしながらまた言った。
「イナモト。イナモト……」
わたしは首を傾げていたが、すぐに納得して頷いた。日本のサッカー・チームでは「ガンバ大阪」にいて、トルコの一部リーグの「ガラタサライ」でプレーした、稲本選手のことである。そういえば、バムッカレでもイズミルでも、「イナモト」と出し抜けに声を掛けられた。日本人と見ると、誰でもイナモトの名を言っているようだ。それだけトルコで人気があるのは、同じ日本人として嬉しいことだ。
わたしは右手を握り締め、親指を立てて、英語で言った。
「彼は日本のフット・ボールで、ベスト・プレーヤーだった」
ボーイ君もわたしと同じように、握り拳を上げてポーズをとり、ニッコリとした。さらに彼は、テーブルの傍に来た。
ポケットから、おもむろに1リラのコインを取り出し、テーブルの上に置くと同時に、手の平を広げて隠した。わたしとコイン当て、つまり丁半賭博? をしようというのだ。
わたしも、ポケットから1リラを取り出した。手の平に置いたコインを、親指で真上に高く跳ね上げて、手の平に戻した。
ボーイ君と、同じ表面が出た。すると彼は笑いながら、自身の1リラ・コインを差し出してきた。わたしが勝って、1トルコリラ(85円)を儲けたのだ。ありがたく戴いて、彼と握手をして別れた。





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