半夏生のころ


どんよりと垂れ込めた鉛色の空から、大粒の雨が降り出した。乾き切った庭の土が、見る間に黒ずんできた。
「やっと降ってくれたか……」と、思わずほくそ笑んでしまった。梅雨の最中に、雨を待つのもおかしなものである。
しかし、それもつかの間で、すぐに雨も上がってしまい、庭の土も見る間に乾いてしまった。「焼け石に水」である。
蒸し風呂に入ったように体がべたつき、心までもが黴てしまうような梅雨を、むろん歓迎しているのではない。むしろ、このような季節は無い方がいいと思う。でもよく考えてみると、空梅雨は自然の営みのバランスを崩し、我々の生活にしっぺ返しをくらうことになる。
酷暑のときに節水を強いられたり、生きる糧である米の不作はもとより、野菜、果実……など、数えばきりがない。
我が家の庭では、今ちょうど石榴が花盛りである。青々と繁茂した葉を、艶やかな紅色の花で飾っている。「今年の花は艶が無いなあ……」と思いつつ眺めていて、ふと気が付いた。毎年、この花の咲くころは霖雨の最中だったのだ。そのために、雨に洗われてなまめかしい艶を増していたのである。
「半夏生」は、夏至から11日目に当たる7月始めごろで、梅雨もそろそろ明ける……と思われるころだ。半夏生は、月の満ち欠けで月日を数えた旧暦に刻んだ、「太陽の季節点」の一つで、太陽の位置が黄経百度になる日をいうという、ちょっとややこしい話だが。
花でたとえると、植物の半夏(はんげ・カラスビシャクの漢名)の花期に合わせて、名付けられているようだ。
そういえば、我が家のニオイハンゲの鉢植えの花が、今ちょうど咲いている。ウラシマソウやムサシアブミなどのような異様な花を、ぐっと小さくしたような花からは、芳香が漂っている。
半夏生のころから、集中豪雨の多い梅雨の後期に入る。さらに、雷を伴った「送り梅雨」を過ぎるまでの連日、豪雨に見舞われるのかと思うと、その被害が少々気になってくる。
大雨が暴走せずに、ほどほどの恵みの雨にして欲しいところだ。





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