ローマの一日


朝食を終えると、タクシーでスペイン広場へと向かった。
イタリアン・ブランドの店が軒を連ねるコンドッティ通りで、妻は希望の買い物を済ませる。近くにある「グレコ」は、ヨーロッパの芸術家から愛された由緒あるカフェだ。一杯のコーヒーを飲んだ後、タクシーを乗り継ぎながら「ヴァチカン美術館」から、「コロッセオ」「フォロ・ロマーノ」を一日かけて巡った。
楽しみな夕食。今日は「ハシゴ酒」ならぬ、「ハシゴ食い?」をする予定で、ガイド・ブックで調べておいた店へ。
一軒目は、ローマの終着駅(テルミニ駅)近くの、レストラン「トゥディーニ」だ。パスタが見えないほど山盛りの、ムール貝のシーフード・スパゲッティや、さっぱりとしたイカの鉄板焼が美味だった。白ワインも実に旨い。
次の店は、ホテル近くの路地を入ったところにある、「マングローヴァ」。
だいぶ腹は膨らんではいるか、胃袋の隙間は残してある。生ハム・メロンと、ボトル・ワインを注文する。イタリアのワインはどれも旨い。日本で飲むように妙な甘さや嫌味がない。それに安い。旅行中はもっぱら水代わりに飲んでいたので、ついつい飲み過ぎてしまう。
店は清潔で、小奇麗だ。それよりも、アット・ホームな雰囲気に心が和んで、ローマにいるとは思えない気持ちになってきた。



ギターとフルートを手にした2人の流しが、我がテーブルに来た。わたしの好きなカンツォーネの「マリーナ」と「コメプリマ」をリクエストした。
上体でリズムを取りながら、ハスキーなイタリア語で唄うギター氏。哀愁を帯びたフルートの音は、心地好い響きだ。わたしは懐かしい青春時代のメロディーを、一緒に口ずさんでいた。妻はワイングラスを傾けながら、やや赤みを増した顔を綻ぱせている。
「アモーレ(恋して)、カンターレ(唄って)、マンジャーレ(食べて)、ドルミーレ(よく眠って)……『イタリアン・デカンショ』よ!」
心の中のわたしが、ギターのリズムに合わせてオペラ歌手のように唄っている。





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