緑輝くマレーシア


マレーシアの首都クアラ・ルンプルの街路樹の巨木が、青々と茂っていた。
枝は四方ハ方に勢い良く伸びて、歩道にほどよい日陰を作っている。汗を拭きふき、そんな木陰に駆け込むと、ほっとする。
街の生け垣や道路の中央分離帯、それに下植えは、ブーゲンビリアやハイビスカスが多い。どこも、艶やかな赤やピンクの花が咲き誇っていた。それもそのはず、ハイビスカスはマレーシアの国花だという。
高温多雨に育まれたマレーシアは、実に緑溢れた国だ。
ホテルのべッドで目覚めるのは、決まって、ラウド・スピーカーから流れるコーランの声か、鳥の鳴き声だった。この鳥、朝のしじまを破って、澄んだ高い鳴き声が響き渡っていた。
カーテンを開けて見やると、木々の茂った庭を飛び回っている。黄色い足と体形は、ムクドリにそっくりだ。
後で聞いたのだが、マレーシアでは「マイナ」といい、九官鳥の仲間だという。むろん、九官鳥はムクドリ科で、インドやジャワが原産地なので、気候の似たマレーシアは、彼らにとっても住み良い国なのだろう。
クアラ・ルンプルから古都・マラッカヘの道すがら、車窓から眺める風景は、ゴムやヤシのプランテーションが続いている。ゴムの木は、我々の見慣れた観賞用の木とは違って葉は小さく、枝は四方に張り出していた。木肌も黒と灰色のまだら模様であり、日本で見かける白樺の幹のようだった。初めて目にしたときは、ゴムの木とは思えなかった。
木は植えてから、7年目よりゴム液が取れるようになるそうで、眺めている木々は3年ほどの木だという。それでも、少し太めの木が揃ったところでは、幹に斜めに彫り込んだ切り筋や、小さなカップが取り付けてあり、ゴム採取の光景が見られた。しかし最近は、ゴムよりもヤシの方がお金になるとかで、ゴムのプランテーションは減少しているとのこと。
見やるヤシのプランテーションは、すべて「パームヤシ」だという。実から油を取り、洗剤などを作るそうだ。クアラ・ルンプルで、穴を明けたヤシの実に、ストローを差し込んで果汁を飲んだが、これは「ココヤシ」である。
プランテーションの切れ間には、ニッパヤシの葉で葺(ふ)いた屋根の、高床式の農家が点在している。所々に小さな池があり、水牛が三三五五と水に漬かっている、のどかな光景が見られる。
農家の周りにはバナナやヤシの木が植えてあり、トゲのような果皮のランブータンの実は、わたしの大好きなトロピカル・フルーツの一つだ。



今夜泊まるホテルは、標高1700mの山岳地帯にある「Gホテル」。マレー語で、「雲の上の高原」との名のごとく、高原リゾート地である。
車が霧に包まれた山道を上るごとに、熱帯の地とは思えない冷気が伝わってきた。
車窓から眺める光景は、木の枝にツタ植物が縦横に絡み合っている、うっそうとしたジャングルである。ヤシの木のように背の高い、羊歯の群落も見られる。
車は、あえぎあえぎ高度を増していく。目を凝らしていると、ヒルガオに似た桃色の花がたくさん咲いている。所々に、蘭の花も見られる。すらりと伸びた茎と、その先端の赤紫色の花は、園芸種の蘭のデンファレのような姿だ。
上り始めたころは、カザリシロチョウやアゲハチョウ、マダラチョウ、それにたくさんのキチョウの群れも見かけたが、「Gホテル」に近づくごとに、そんな蝶の姿も消えていた。
ホテルに着き車から降りると、深い霧と身を縮めてしまうほど強い風に驚かされた。
翌日訪れた、ペナン島。遠方にペナン橋を眺められる海岸の草地には、たくさんのオジギソウが自生していた。
葉に指を触れると、次々と涼し気な葉を畳んでいく。花は日本で見かける色よりも、赤色が濃い。
チョウたちの優雅な舞いに目を楽しませてくれ、溢れる緑に心が和み、豊かな熱帯の果実に胃袋を潤わせてくれた、マレーシアの旅だった。





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