カンチェンジュンガの雄峰


デリーから、ダージリンヘと飛んだ。世界第3位の高峰・カンチェンジュンガ(8598m)を見るためである。ダージリンに5日ほどの日程をとったので、必ず見られるだろうと思っていた。さにあらず、「今年はモンスーンか早いから」と言っていた通り、毎日雨の日が続いてしまった。
黄金色に輝く、モルゲンロード(朝焼け)を見ようと、日の出前に車を飛はしてヒマラヤの展望台の「タイガー・ヒル」へと向かう。しかし着くと、雨か降り出してしまった。翌日も、翌々日も雨だったり、雲が厚くてヒマラヤの雄姿は見られなかった。
デリーヘ戻る、最後の日だった。夜中に、大雨と雷が鳴り響くほどの大荒れだったので、気落ちしていた。しかし、早朝に雲が切れ始めたのだ。わたしは慌てて着替えを済ませ、カメラを抱えて近くの丘の展望台へと、走って行った。
まったく幸運だった。「諦めなくて良かった」と思った。前方には、白銀で化粧をした巨大な山群が、ぼんやりと姿を現していたのだ。その威圧をあたえるかのような白峰の威容に、カメラを構えることも忘れ、しばし唖然としてしまった。荒い息を整えてから、カメラのシャッターを切り続けた。
そんな幻想的な光景は、まったく一瞬のことだった。厚い銀幕を下ろしたかのように、深いガスによって、白銀の山群は視界から遮られてしまったのだ。
わたしはホテルの部屋へ戻り、ビールを頼んだ。「カンチェンジュンカに乾杯!」とグラスを高々と上げて、独り乾杯をした。



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