ナンガ・パルバットの幻想的山容


インダス河に沿って尖峰か続く、険悪なカラコルム・ハイウェー(パキスタン)を北上する。雲の切れ闇から、ヒマラヤ西端の高峰ナンガ・パルバット(8125m)が姿を現した。白いベールをまとった、どっしりとした山容だ。世界第9位の高峰は、朝日を浴ひて銀色の光線を放つかのように輝いている。
そんな華麗な姿とは裏腹に、この山の異名は「魔の山」である。1954年にオーストリア人に初登頂されるまでは、ドイツ隊は6度もアタックした。しかし、多くの犠牲者を出してしまい、聖山は汚れを知らぬ人跡未踏の山だったのだ。
これは偶然だったが、北部辺境地のフンザからの帰りのことだった。インダス河に沿ってイスラマバードへ戻る途上のこと。辺りを覆っていた流れの速い黒い雲が一瞬切れた。その雲の切れ間から、ナンガ・パルバットがチラリと姿を見せたのだ。
夕陽を浴びてオレンジ色に染まった、霊妙で神秘的な雄姿は、神々しい光景だった。
そんなファンタジーな姿も一瞬で、再び山容を現すことはなかった。




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