ベトナムの売り子たち


町を出ると、緑や花々に溢れている。白やピンク色の花弁を広げた睡蓮や、ホテイアオイ。群れる、ハイビスカスやブーゲンビレアの花々。ネムの白花やオジギソウのピンクの花は可憐だ。遺跡の間には、芙蓉やランタナの小花が咲いていた。
驚いたのは、水田に点在する墓だ。中には水びたしの墓石もある。ガイドのY女史に訊くと、わたしの質問が不思議なのか? 「これが当然」といった顔で、首を傾げていた。ハノイの郊外で見かけた墓は、だいたいが水田の中にあった。
我々のバスが停まると、子どもたちや売り子が集まってくるのは、東南アジアでは共通の光景だ。
見ていると、売り子たちの掟があるのか? 一対一で売りに来る。何人もまとまっては来ないのだ。
ストックブックに収まった、ベトナムの切手が欲しかった。少年は5ドルというので、2ドルで交渉を始めた。この少年、わたしの言い値では売る気配は無かった。結局、3ドルで買った。
一人の売り子と、目が合ってしまった。近くに夫と見られる若者が、バイクで待機している。我々のバスが走り出すと、2人で後を追って来た。我々の行く先の博物館に着くと、彼女はすでに土産物を片手に、わたしを待っていた。
買いたい物は無かったが、気の毒に思い絵葉書を1ドルで買った。
フエに向かう途上、ハイヴァン峠で休憩タイムをとった。売り子がしつこく、物を売ろうとしてわたしから離れない。たどたどしい日本語で、「かっこいい」などと、ご機嫌をとってくる。わたしが小用を終えると、彼女は近くで待っていた。
1ドルで絵葉書を買った。しかし彼女は、膨らんだ自身の腹をさすり、「もう一人お腹にいるから、もう1ドル」と、英語とジェスチャーを交えて分けの分からないことを言う。何度断っても、すごすごとは引き下がらない。
もう1ドル出して、絵葉書を買った。お人好しのわたしだ。



ハロン湾のクルージングでのこと。小さな漁舟が、島の近くに停泊していた。子どもがハンモックで横になっていたので、手を振った。するとその漁舟が、エンジンをかけて我々の観光船に寄り添ってきた。鮮魚売りの舟だったのだ。手を振るのが、買う合図なのだろう。「何も買わないで悪かった」と、心に残っている。
ベトナムの線香は、長いヒゴについた太いものだ。その線香を作っている、土産屋に立ち寄った。
16〜17歳ほどの女の子が作っている。粘土の塊のような香材を薄く延ばして、ヒゴに巻きつけていた。
線香や扇子を手に手に、子どもたちが群がってくる。線香はいらなかったが、両方を1ドルで買った。どこでもそうだが、売り子たちのバイタリティーには、根負けしてしまう。




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