ラオスからメコン川クルージング


ラオスを訪れたのは、3月初めの乾季が終って、暑季に入ったころだった。ビエンチャンから飛行機で35分余り、あっという間にルアンパバーンに着いた。
ルアンパバーンの主だった寺院や多くのホテルなどは、メコン川やカーン川に、囲まれるように建っている。わたしの宿泊先の「MRホテル」は、蘭の庭園が見事だった。このホテルから、バスで15分ほど行くとメコン川に出る。船溜りは王宮前にあり、ここからクルージングするのが楽しみだ。焼酎を造っている村と、たくさんの仏像が納まっている、「パクオウ洞窟」を訪ねる予定である。どちらも、メコン川沿いにある。
前方には黄褐色に濁ったメコン川が、悠々と流れていた。川幅は広く、流れも激しい。笹の葉のように細長い船が数隻、船着場に繋留されている。船の幅は細いが、40〜50人が乗れる大きなものだ。かつて、タイのメコン川をクルージングしたときの船と、そっくりである。
細い桟橋を渡って船に乗り込むと、中央は通路になっており、舳先に向かって両側に椅子が並んでいる。
船はエンジン音を響かせつつ、ゆっくりと動き出した。流心に出ると、スピードが上がっていく。遡上するほどに、川岸の緑豊かな木々が、どんどん離れていった。



流れの速いメコン川では、たとえ泳げても流されてしまうだろう。川の中ほどの深さは6メートルで、雨季には12メートルにもなるという。
時折、川岸に人の姿を見受ける。腰まで水に浸かって、屈んでいる。ガイド氏に訊くと、川海苔を採っているという。ひと呼吸置いて、さらに言った。
「春先の今ごろの時期は、かなり採れます」
木々の合間には、民家が見られる。開けた場所では、集落となっていた。草の生い茂った土手には、数頭の牛が草を食んでいる。流れの激しさとは裏腹に、長閑な風景である。



右岸が、開けた河川敷となった。そこには、緑色の屋根で白い塀に囲まれた、大きな建物が建っている。高さはないが、火の見櫓のような塔も建っていた。ガイド氏は、指を差しながら言った。
「刑務所が見えます。建てて間もないものです」
新築で塀も低く、実に自然環境に恵まれた刑務所だ。受刑者は、「居心地が良くなってしまうのでは」と、案じてしまう。
両岸は再び、豊かな緑に覆われている。笹の葉のように細長い船は、白い波を切って、ぐんぐんと遡って行く。前方に、岩を積み上げたような、中洲が迫ってきた。川の中ほどにあり、かなり高く、小島のようになって草木が茂っている。
岩の中洲を回り込むようにして、船はエンジンを轟かせていく。両岸には民家はなく、木々の緑が輝いている。それはまるで、ここだけが、ゆったりとした時間が流れているようでもある。



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