メコン川岸の洞窟仏像群


酒造りの村バーン・サーンハイ(ラオス)から、再び船に乗り、さらにメコン川を遡る。黄褐色に濁った水面は舳先で切り分けられ、白波を立てて左右に分かれていく。艫(とも)の方を見ると、波紋を描いたみなもが広がっていく。
両岸には緑豊かな潅木が茂り、川との境を決めている。その背後には、緑の少ない岩肌を晒した、岩山が目立って多くなってきた。
岸辺には、ニッパヤシ葺きの高床式の家が点々と建っている。川の水面よりも、だいぶ上の土がえぐり取られている。きっと雨季には、その位置まで水が上がってきたのだろう。
人家の近くまで、えぐり取られた跡がある。たとえ高床式といえども、流されやしまいかと、雨季になる度に不安であろう。



そんな単調な風景を眺めつつ、30分ほどメコンの流れに逆らって進んで行くと、切り立った岩壁の前の船着場に着いた。見上げる、横に広がった洞窟の入口は、怪獣の大口のようでもある。
下船して、上部の洞窟への道を行く。窟へと上っている人は、欧米人や中国語を話す人が多く、どこへ行っても見かける日本人の姿は少ない。うっすらと額に汗を滲ませるころ、洞窟に着いた。薄暗い窟内には、空いたスペースがないほど仏像が並んでいる。



 外からの光を受けた洞内には、さまざまな大きさの仏像が、無造作に並んでいた。それはまるで、日本の「五百羅漢」のような雰囲気がある。ここには、4000体以上の仏像が安置されているという。
暗さに目が慣らされてくると、仏像の姿がしだいに見分けられるようになってきた。立像、座像などさまざまで、これ以上置く余地がないと思われるほど、ぎっしりと並べられている。特に金箔が張られた仏像は、暗闇の中でも、か細い太陽の光を受けて浮き上がって見える。
どの仏像もさほど大きくはないが、ラオスの像の特徴でもある、頭部が尖っている。中には欠け落ちているものもあるが、痛みは少ない。珍しいのは、五重塔のような台座の上に趺坐する仏像だ。ほとんどの仏像は、スリムな肢体で、螺髪である。



入口近くには、メコン川を見下ろすように置かれた立像があった。それはまるで、川を守る仏様のようでもある。
見下ろす黄濁色のメコン川は、ゆったりと流れており、笹の葉のように細長い漁船が、白波を立てている。対岸には数軒の集落があり、背後には、小高い岩山が聳えていた。
洞窟は二カ所あり、ここは「タム・ティン」といい、さらにこの上には、「タム・プン」という窟がある。
坂と階段を、さらに15分ほど上ると、横穴があり、「タム・プン」の洞窟だ。真っ暗な窟内には仏像が点在しており、外の光はまったく入らない、異様な雰囲気である。わたしの小さな懐中電灯では、奥まった場所の像まで光が届かなかった。
洞窟前の船着場から再び乗船し、メコン川を下り、ルアンパバーンの王宮前の船着場に戻っていった。



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