木彫店の青年たち


スリランカ第二の都だった、ポロンナルワ。その主な遺跡の見学を終え、バスに乗り込んだ。これから「Hビレッジ」へと戻り、ホテルのレストランで、夕食である。
途中、道路沿いの木彫り細工の店に立ち寄り、小休止をする。
店内に入ると、芳ばしい白檀の香りが漂ってきた。一隅では、木彫り職人がノミを片手に、真剣な眼差しで像を彫っていた。
スリランカの特産は、何といっても紅茶と宝石があげられる。その他、木彫りやバティックも人気のある土産品だ。
かっぷくのいい中年店員は、わたしの傍にぴったりと付いて離れようとしない。白檀の仏像を売りつける気である。彼は、ショーウィンドーの中の彫像を、次々と説明していく。わたしは買う気がないので、勧められても曖昧に頷いているのみだ。すると彼は、諦めて離れていった。



店の中央には、大きな水槽があった。鮮やかな熱帯魚に混じって、たくさんの金魚が一緒に泳いでいた。そんな珍しい光景を見詰めていると、若い店員たちが寄ってきた。青年たちは水槽を指差しながら、交互に言った。
「キンジョ キンジョ」
「キンジョー キンジョー」
一瞬、彼らが何を言っているのか、分からなかった。でも、金魚を指差している。わたしはゆったりと泳いでいる琉金を指差しながら言った。
「キンギョ キンギョ」
彼らは頷きながらわたしに習って言った。
「キンジョ キンジョー」
わたしは首を横に振りながら、「ノー・キンジョ(近所) ジス・イズ・キンギョ(金魚)」と、英語で言った。しかし、3人とも「ギョ」の発音ができなかったのだ。最初は、わたしはからかわれているのかと思ったが、そうではない。何度言っても「ジョ」か「ジョー」になってしまうのだ。
しまいには彼らは、真剣な眼差しで目を見開いて、発音練習をしている。わたしはおかしくなってしまい、両手を広げて肩をすぼめる、欧米人の良くやる仕草をした。すると彼らは、一斉に笑った。
買う気はないが、隣の部屋の彫像コーナーを見ていた。すると違う2人の青年が近寄って来た。スーツを着て、きちっとした身なりの店員だった。男前の一人が、わたしを指差して言った。
「カンフー カンフー」
もう一人の若者が言った。
「オシン」
何の事かと思って2人に聞くと、わたしが「カンフー」の映画に出てくる男に似ているという。それは、先ほどのシーギリア・ロックの駐車場でも、言われたことだ。「オシン」は、おなじみの日本のテレビ・ドラマ「おしん」で、スリランカでも人気の番組だという。
笑いながら3人で話していると、バスの発車時間となった。時計は午後6時を回ろうとしている。彼らは名残惜しそうな顔で、手を振った。

 


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