午後のティー・タイム


街中のコロンボ(スリランカ)のホテルから、海の近くのホテルへ「アフタヌーン・ティー」に出かける。
海岸線を眺めながら、10キロほど南下した、「マウント・ラヴィニヤ・ホテル」までは、バスで40分ほどだった。
かつてイギリス総督府だったという、白亜のコロニアル建築のホテル。インド洋を一望できる岩壁の際にあり、ロケーションは抜群だ。今でも、イギリス植民地時代の伝統と格式を守り続けており、世界の著名人たちにも愛されているという。
中庭のプールでは、欧米人の家族連れがはしゃぎ回っている。そんな、光景が眺められる近くのテーブルに案内され、お茶の出るのを待つ。すると、今まで穏やかだった天気が一転する。太陽が雲に隠されたとたん、いきなりスコールに見舞われた。慌てて、プールサイドのバーに飛び込む。まだ、お茶が出ていなかったのが、幸いだった。
ガラス張りのバーを叩き付けるような、激しい雨だ。滝のように、雨水が流れ落ちてきて、外の風景は鉛色となってしまった。
しばらくすると、ショート・ケーキと紅茶が、テーブルに並んだ。辛党のわたしは、ふだんケーキは食べないが、これも旅の経験の一つと思い味わう。
もともと、「アフタヌーン・ティー」なる習慣は、ヨーロッパのものだろう。一片のケーキと一杯のお茶を飲みに、わざわざ出かけるのは腰が重い。般若湯だったら、率先するところだが……。これも習慣、いや育ち柄の違いからくるのだろう。



スコールはすぐに上り、強烈な太陽がおかまいなく照らし始めた。再びテラスに出る。
足元の岩壁に打ち寄せられた波は、砕けて白く飛び散っていく。青い海原は果てしなく続き、海と空との境を、地平線で仕切られている。弧を描いた浜辺が彼方へと続き、深緑色の熱帯樹林が、砂浜から延々と広がっている。海岸線に沿って、列車が走っていく。ここから見ると、それは玩具のようで、カタツムリのようにゆっくりとした動きだ。
陽射しは強いが、海風が肌に心地良い。テラスの周囲に定間隔に植えてある、椰子の葉がそよいでいる。
「イトウさん、日本にもこんな所がありますか?」
不意に、背後から声をかけてきたのは、アヌラさんだった。わたしは、沖合を眺めつつ言った。
「ないですね。椰子や熱帯樹林の茂った海岸線の風景を見るのは、初めてです」
アヌラさんは頷きながら、海を見詰めていた。テラスと遊歩道とを仕切る花壇には、ブーゲンビレアが咲き乱れ、鮮やかな紅や桃色が、海の青さと競っていた。
それにしてもスリランカは、「光り輝く島」との名がぴったりの国だ。その昔、ギリシア人の船乗りが、スリランカに付けた「SERENDIP」という名が、英語の「SERENDIPITY(偶然に見つけた美しさ)」の語源となったという。それから二千年を経た現在でも、通じる言葉である。
スリランカは、北海道の約8割の面積しかない小さな国だ。しかし、豊かな動植物群や、海や山の自然美、それに歴史が刻まれた、寺院や遺跡が溢れている。世界遺産を見ても、「アヌラーダプラ」「キャンディ」「ポロンナルワ」「シーギリア」「ダンブッラ」「ゴール」「シンハラージャ森林保護区」などなど、7箇所も登録されている。ちなみに日本は11箇所だが、面積比からすると、スリランカは「宝の山」といっても言い過ぎではないだろう。

   


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