埋葬虫


飛石伝いに庭を歩いていると、足元を黒い虫が動いていた。踏みそうになったので、足を引く。
「何だろう……」と、前屈みになりながら近づいた。
ダンゴムシ、ワラジムシ、いや違う。シデムシ(埋葬虫)である。幼虫を従えて数匹おり、ミミズの死骸に貪りついているのである。
虫の屍骸に集まっているダンゴムシやワラジムシを、ときどき見かける。でもシデムシは、庭で初めて見た。名前からして、好ましいイメージでない虫である。
シデムシを図鑑で調べてみると、オオヒラタシデムシだった。日本にはシデムシ類が約35種類おり、ほとんどが動物の屍骸に集まるそうだ。つまり、シデムシを漢字で埋葬虫と書くように、自然界の掃除屋なのである。
ふだんは飛石や落ち葉の下に潜んでいるが、ご馳走を見つけると、一家揃ってぞろぞろと食事にあり付くようだ。
幼虫はワラジムシを流線型にしたような形で、油を塗ったように黒光りしており、甲虫とは程遠い体形である。大小さまざまな幼虫達と成虫とが、一緒にミミズの屍骸を貪り合っている姿は、どう見ても同じ種類の昆虫とは思えない。
成虫は2.5センチほどの大きさで、その色は、薄汚れたくすぶった黒色である。
掃除屋に似合った(?)カラーなのかもしれない。しかし、さすがに甲虫という名の如き、立派な強そうな衣を身に着けている。
シデムシが我が庭に住み着いた理由は謎だが、どうもシデムシの餌となる虫が多いからに思える。梅、柿、桃、百日紅……などなど、落葉木の多い我が庭。落ち葉が肥料となり、地下のミミズはもとよりダンゴムシやワラジムシなど、虫遠の住み家となっているようだ。それに庭石の下は、絶好の棲み処ともなろう。
それよりも、秋には快い音色でオーケストラを楽しませてくれる、虫たちは好い。カネタタキを始め、コオロギ、ウマオイやスズムシたちがいる。それに、滑稽な仕草をするハエトリグモやカマキリ、バッタもいる。むろんシデムシもその一員に加わった。そんな昆虫たちのいない庭は寂しい。
さらに鳥達が、その虫たちを求めて訪れる。これが自然の成り行きだろう。
「埋葬虫」などという、好ましくない名前を貰って気の毒である。しかし、「そんなことなど気にしてないよ!」と言わんばかりの元気者である。
一匹のミミズの死骸に、数匹のシデムシが仲良く食事をしているさまを見ていると、テーブルを囲んだ家族が、楽しげに夕べの団秦をしている、人間世界の姿を二重写しにしてしまう。

   


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