カジュラーホーに向けて


レスト・ハウスからカジュラーホーへ向かったのは、午前9時半を回ったところだった。
日曜日とあって、朝から子どもたちがそこここで遊んでいる。眺めるバスの車窓には田園風景が続き、牛の群はのんびりと草を食んでいた。
今の時期は乾期であり、見かける川には水が少なく、干上がりかけたところもあった。
畑と荒地とを分けるかのように、その境界には、芙蓉に似たピンク色の花が咲いている。畑はどこも水気が無くて、黄色の土肌を晒していた。
畑の間には大樹が点在して、枝を長く張っている。木々に囲まれた小さな農家は、今にも崩れてしまいそうな土の家が多い。
いくつかの小さな町を通り過ぎて、昼近く、道路沿いの食堂にバスを停めた。観光地ではないので、地元の人たちが利用している店である。扉も無く、だたっ広い土間にテーブルが並んでいる。道路脇では、2人の男たちが料理を作っている。調理台には、トマトやインゲン豆が並んでいた。瓜もカリフラワーもある。
我々はチャイを飲みつつ、レスト・ハウスで作ってもらった弁当を開いた。鶏肉をベースにした肉料理は、見た目よりも旨く、ボリュームもあった。


物珍しそうに、われわれを眺める子どもたちが、遠巻きに集まってきた。
食事後、子どもたちと一緒に写真を撮った。撮り終えてから、デジカメのモニターを子どもたちに見せる。写っている自分の顔を見ながら、どの子も満面の笑みで喜んでいた。いつの間にか大人たちが、後方から覗き込んでいる。


バスはカジュラーホーに向けて、再び走り出した。小さな町はすぐに途絶え、道路沿いには田園地帯が続いている。ラベンダーのような鮮やかな紫色の花が、一面に咲いている。
小休止をするために、バスは民家の前で停まった。駐車場のように広い空き地がある家の前には、先ほど車窓から見た、ラベンダーのような色の花が咲いている。近づいて花を見ると、サヤエンドウのような実がたくさん付いていた。この豆を、食べるのかもしれない。
近くでは、数人の男たちが焚火をしている。側に行くと、わたしが入れるほどのスペースを、空けてくれた。日中は、じっとしていても汗が流れるほどの暑さだが、日が落ちてくると冷え込んできて火が欲しい。実に、温度変化が激しい。


僅か15分ほどのトイレ・タイムを終えると、バスはエンジン音を高鳴らせながら発車した。
最前まで青かった西の空が、しだいに灰色から黒く塗り替えられていく。外灯の少ない道路からは、沿道の情景がまったく分からなくなってしまった。
対向車もほとんどなく、暗闇の道路を照らすバスのライトだけが、煌々としていた。
カジュラーホーの町は、もう近い。ホテルに着いたら、ゆっくりとバス・タブに浸かりたい。



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