ジャンシー駅へ

カジュラーホー寺院を見終わってから、昼食をとるためにホテルに戻った。
再びホテルを発ったのは、午後12時半だった。これからアグラへの列車に乗るために、ジャンシー駅へと向かう。アグラまでは新幹線で、3、4時間で着くとガイドのGさんは言う。それにしても、1時間の誤差は大きいので聞いてみた。するとGさんは、笑いながら言った。
「あくまでも予定時間です。日本とは違って、インド時間なので、到着時間には幅があります」
わたしも、思わず笑ってしまった。
カジュラーホーは、やはり村との名が相応しい。賑わっているのは西群寺院の周辺だけで、バスが進むほどに、農村地帯が広がってきた。沿道は、一面の菜の花畑である。それはまるで、鮮やかな黄金色の絨毯を、敷き詰めたかのような様でもある。今ごろの時期から2月ごろまでは、北インド一帯に見られる田園風景だとGさんは言う。


2時間ほど走ったところで、小さなドライブインで15分ほど小休止した後、先を急ぐ。ジャンシー駅からの列車に、乗り遅れないためだ。これも、何事も先手管理に徹した、Gさんの最善の判断でもある。
沿道の畑では、赤や緑色の鮮やかなサリー姿で農作業をしている女性たち。子どもも交じっており、男たちは鍬を振っている。畑の真ん中には、カカシが立っている。日本のものとそっくりだ。
Gさんは、前方を指差して言った。


「あの大きな橋は、ピット川に架かる橋です」
橋の中ほどに来ると、バスは停まった。左側にはダムがあり、右側はゆったりとした流れの川である。川幅が広くて、中州の点在する、日本的な風景だ。Gさんは、川を眺めつつ言った。
「インドでは、このような美しい川の風景は少ないです。私の一番好きな風景です」
川岸に木々が茂る、穏やかな流れを、しばし車窓から眺めていた。
沿道の両側には、鮮やかな菜の花畑が続いている。しだいにその黄金の絨毯の規模も広がり、華やぎが増してきた。
いくつかの小さな町を通過して、ジャンシー駅に着いたのは、午後5時を回ったところである。




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