新幹線でアグラヘ

駅前の駐車場にバスが着くと、ポーターたちが寄ってきた。若者たちは、我々の大きなトランクを頭上に載せて、構内からホームへと運んでいく。一度に2つも頭に載せて小走りで行く姿は、図抜けた演技を見ているようだ。
ホーム上から見るレールの幅は、かなりの広軌である。トランクが運ばれて、乗車位置が決まるまでは、かなりの時間がかかった。しかしほどなくして、新幹線はホームを滑るように入ってきた。指定券に書かれた番号の席に座るや否や、列車は発車した。午後6時50分だった。時刻表からはかなり遅れているが、これもインド・ペースである。


新幹線といっても、名ばかりである。日本のJR新幹線とは格段の差があり、ローカル急行のような感じである。もっとも、かつて台湾で乗ったことのある新幹線も、このような車両だったことを思い出す。
このインド版新幹線は「シャタブディ特急」と呼ばれ、比較的短い距離の都市間を結ぶ列車である。その最高速度は、120キロという。座席は通路を隔てて、二席と三席とに分かれている。つまり、横に五席がある訳だ。わたしは、三席並びの通路側だ。
ややあって、ウェーターがお茶を運んできた。小袋の茶菓子もある。お茶は小さなポットに入っており、紙コップが付いている。これは、新幹線に乗車した人たち全員のサービスである。
むろん、車中では酒とタバコは禁止である。インド人の多くが酒を飲んでいると聞いているが、それを禁止するとはおかしな話でもある。これは宗教的な問題で、公然と飲むのを禁止しているのだろう。でもわたしにとっては、楽しみの一つが減ったことになる。


トイレは、車両の後部に設けてある。通路を挟んで、インド式と洋式とがある。インド式に入ってみたが、やはり慣れた洋式の方が使い易い。
隣席のSさんと四方山話を楽しんだり、珍し気にインド新幹線を見回して、写真を撮ったりしていると、目的地のアグラ駅に着いた。時計は、午後10時になろうとしているところだった。
今夜の宿は、「パレス」との名が付くホテル。その名のごとく、宮殿のような造りだった。高い天井の長い通路には、華やかなシャンデリアがずらりと並び、豪華さを誇示しているかのようだ。困ったことに、造りと色を総て統一してあるので、広いパレス内では部屋の区別が付け難い。自身の部屋はもとより、レストランやロビーに出るのに首を傾げてしまう。
ナンが旨かった、ターリー料理の夕食をとってから、三階の部屋へ入る。



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