メコン川沿いの酒造りの村


ルアンパバーン(ラオス)から1時間余り遡上したころ、船は速度を落しつつ、岸に向きを変えていった。岸辺の高台には、ニッパヤシ葺きの数軒の小屋が見える。船はその小屋の方へ、近づいて行く。
崩れかかった黄土の土手の手前に、桟橋があった。水面よりやや高く、丸太と竹で組み上げた、粗末なものだ。
小屋から出てきたのだろう、2人の若い女性が、舫(もや)い杭に我々の乗った船を横付けした。
上陸したここは、「バーン・サーンハイ」と呼ばれている酒造りの村だ。ラオスの焼酎、「ラオラーオ」を造っている。
激しい水流に削り取られたのだろう、崩れかかった土手にはステップが取り付けられていた。太い竹を組み合わせて、編み込んだ割竹を横に取り付けてある。さすがに、竹の豊富なメコン流域だと思った。そんな梯子のような道を上がると、集落に出た。
木々に囲まれた小さな村里は、家々が軒を連ねていた。どの家も、藁やニッパヤシの葉で葺かれた、小さくて粗末な造りである。



曲がりくねった、細い路地を歩いて行く。足元を数匹のチャボが過ぎって、土間に入って行った。どの家も、開け放たれている。
きっと闘鶏をやるのだろう、シャモのような攻撃的な鶏が籠の中に入っていた。狭い庭には、七面鳥も放し飼いにされている。小道を歩いていると、分別し難い、入り交じった生活臭が漂ってきた。
小道脇のそこここには、椰子の木が茂り、たくさんの実が付いている。巨木のジャック・フルーツの木も、枝や幹に、大きな実をたわわにぶら下がっていた。
人家の道に面した土間は、どの家も土産屋になっている。テーブル・クロスや、バッグなどが並べてある。幅の狭い木を渡した棚には、ここで造られた焼酎や、マムシ酒ならぬ蛇酒も並んでいた。
細い草の茎で編んだ、簾障子のような上には、川海苔を乾かしていた。海苔の表面が、赤や白色のもので模様づけられている。これは、トマトやタマネギを小さく刻んで、散らしているのだ。何とも、奇妙な海苔である。



川の縁では、この村特産の焼酎を造っていた。土手の斜面の上部では、2人の少年が湯気立っているモチ米を、シートの上に広げていた。その下では、2人の中年女性が「ラオラーオ」を蒸留している。
焼酎を造る方法は、ドラム缶に発酵したラオラーオを入れ、下から火を焼(く)べ、上からは水を張った大鍋を載せて冷やす。ドラム缶の中間には、パイプが取り付いている。冷やされたラオラーオの水蒸気が、このパイプから外に流れてくるのだ。流れ落ちたラオラーオは、布で濾すと透明になり、これで出来上がりである。実に簡単な仕組みで、ラオラーオは出来上がっていく。その工程の総てが、屋外での作業だ。
ラオラーオの種類も、いろいろある。米をふかしていないものから造るのを、「ラオ・ハイ」。一度ふかしたものに水を入れて、10日ほど寝かせたものを「ラオ・サート」だ。また、バナナを使った赤い色のものが、「ラオ・カオカム」という。アルコール度数はどれも非常に高いので、呑み過ぎに御用心である。
試飲してみたが、飲み口は、思ったよりも悪くはなかった。しかし屋外作業を見ていると、衛生面で首を傾げてしまう。



HOME