母性愛



騒がしい小鳥の鳴き声に、窓の方を見やった。明け放った窓枠の隅に、鳥がうずくまっていた。何の鳥だか分からないが、まだ生まれてまもないと思われる、やっと羽の生え揃ったかわいい鳥だ。きっと、初飛行(?)に疲れたのだろう……。
さかんに囀っている。わたしは身を屈めて、抜き足で窓に近づいていった。そっと手を差しのべて、その幼鳥を捕まえた。
鳥の体温が、手の平から伝わってきた。幼鳥はさらに激しく嗚いた。
「何の鳥だろう……?」と、手を広げようとしたときだ。前方の緑地帯から、けたたましく鳴き叫けびながら弾丸のようなスピードで、一羽の鳥がわたしをめがけて飛んできた。目の前を何度か羽音を立てながら過ぎり、一メートルほど前方に舞い下りた。尾羽根の長い、スマートな姿態のセキレイである。
彼女(?)は再びわたしの目と鼻の先まで近づき、攻撃してきた。ヤンマのように静止飛行をしながら、一段と声高に鳴き叫んで威嚇してきた。その凄まじさに、握っていた両手が緩んだ。その瞬間、幼鳥は手から離れて緑地帯の中に吸い込まれて行った。
しかし親鳥はまだ気が済まないのか、わたしに向かってさかんに鳴き叫んでいる。それは、「バカ、バカ、バカ……」と言っているようにも聞き取れる。しかし、嗚き疲れたのか? しばらくすると、幼鳥の元に飛び去った。
長い尾をピクピクと動かしながら、見るからに可愛いい動作の、見慣れたセキレイが、あんなに激しく人を攻撃してくるとは思わなかった。いや、それよりも、子どもを取られた親鳥の母性愛の深さを、まざまざと見せつけられた。




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