満月は「ポヤ・デー」


ちょうど満月の日だった。「月見で一杯」といきたいのは、日本での話。スリランカでは聖なる日となるのだ。「ポヤ・デー」といい、仕事をせず寺院に参拝する、国民の休日である。この日にはアルコール類がご法度だと、ガイドブックには強調して書いてあった。
しかし自分本位に「外国人に限って特別の計らいがあるのでは?」と、かつてパキスタンを旅したときの厚遇措置を思い浮かべていた。でも、はかない期待が裏切られても、わたしの友の焼酎が、トランクに入れてあるので、心強い。
シーギリヤ随一の高級ホテルという、コテージ風の「ハバラナ・ビレッジ」は、木立の中にあった。赤瓦葺きで白壁の平屋建てで、日本流でいうと、洋風の長屋といったところだろう。部屋も広く、清潔だ。造りも洒落ていて、二泊の宿として落ち着けそうだ。
時計は、午後7時を回ったところだ。足はしぜんに、夕食先へと向かう。頭から「禁酒」の文字が離れないので、レストランへ入るや否や辺りを見渡す。先客の欧米人グループのテーブル上には、ビール瓶が並んでいたので、わたしはニンマリとした。
スリランカ人は、「一日三食カレー」といわれるほど、カレーが基本の食事となっている。その言葉通り、夕食は肉や野菜などのカレーである。バイキング・スタイルなので、好みの物を選べるところがいい。どのカレーも、見た目ほど辛くないのは、外人客用に味付けをしたのだろう。



今日は実によく歩いた。ふだん運動不足の体には、少々ハードだった。汗をかいた後のビールの味は言葉では言い表せない。わたしはすでに、2本目のビールをグラスに注いでいる。
夕食後は、ホテルのホールで民族舞踊のショーがあるという。早速、アヌラさんとS嬢とともに席を移す。
最前列のゆったりとしたソファーに背を預け、再びビールを注文する。アルコールの飲めないS嬢はジュースだ。驚いたことにスリランカ人のアヌラさんは、「ポヤ・デーなんか関係ないよ!」といわんばかりに、わたしと同じペースでグラスを干していく。アヌラさんは、かなりイケル口のようだ。
南インドの「カタカリ・ダンス」に似たのが、スリランカの「キャンディアン・ダンス」だ。彼はグラスを傾けながら言った。
「このダンスは、『キャンディアン・ダンス』よりも激しい踊りとリズムです」
「キャンディアン・ダンス」を、まだ見たことのないわたしは、ただ頷いた。
日本に留学したことのある、ガイドのアヌラさんは作家でもある。十数冊の本を上梓している。彼はわたしの顔を見詰めつつ、言った。
「本はなかなか売れません。でも今度は、日本人のためのスリランカを紹介する本を出したい」
「そうして下さい」
わたしの言葉に、彼はニコリとした。S嬢も頷いた。アヌラさんの言葉の端々に飛び出す四字熟語に、彼の深い日本知識を窺い知れる。

 


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