月星印


日暮れが早くなった。
5時前だというのに、辺りは夕闇に包まれている。
庭から眺める公園のどの木も、薄墨色一色に染まっていた。
築山にある数本のユリノキの高木は、黒幕を降ろしたかのように立ちふさがっている。その上空を見上げると、三日月が輝いていた。その傍らには大きな星が一つ、ひときわ明るい光を放っている。宵の明星で知られた、金星である。
幸いにして、ちらほらと千切れ雲はあるものの、三日月と金星の周りはかかっていない。反ったバナナのような細い三日月が、夜空から浮き出るように輝いている。金星は月の隣に並んでいた。
じっと眺めていると、ややあって、「月星印」を思い出した。子どものころ履いていた、月星印の運動靴である。
「あの標章は、こんな姿をみて思い付いたのかなぁ……」
懐かしき、餓鬼大将の時代を甦らせつつ、しばし宇宙の神秘に見入っていた。
すると、どこかアラブの国旗のようにも思えてきた。
さて、アラブの国旗といっても、どこだったか思い出せなかった。
家に戻って、「月星印」の国旗を調べてみた。それが意外に多いのだ。パキスタンやモーリタニア、チュニジア、トルコ、マレーシア、アルジェリアなどなど。特に、トルコ、パキスタンの国旗が、今見た「月星印」に似ていた。  

   


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