法隆寺に描かれた菩薩像のルーツ

第1窟は、アジャンターのなかでも最高の見どころの窟で、「石窟群の顔」ともいわれている。
薄暗い窟内に入った。本堂の両側の壁面には、守護神像が描かれている。壁に向かって、スポット・ライトが照らされていた。
左側がアジャンターの最高傑作と評定されている、蓮華手菩薩である。この壁画は、我が国の奈良・法隆寺金堂に描かれている、菩薩像のオリジナルといわれているものだ。



近づいて見る菩薩像は、体を大きくS字にくねらせている。蓮華を右手に持ち、半眼でうつむいている尊面は柔和である。菩薩には光背はなく、その背後には、婦人や楽人、猿、鳥などの動物が描かれている。この左右の菩薩は、奥の本堂に安置されている、本尊の仏陀像を守護しているのだ。
僧院の奥が祠堂で、説法する仏陀の座像が暗闇に浮かび上がっている。
宮殿のような豪華な造りの大広間は、20本の石柱で支えられていた。漆喰が剥がれて、壁はだいぶ剥離しているが、素晴らしい壁画が天井や壁に見られる。



瞑想する菩薩や王と王妃、踊り子、婦人などが、柔らかな曲線で描かれていた。豊かな乳房やくびれた腰。肉感的な下腹部や、目鼻立ちのはっきりとした顔立ちなど、時代を超えた妖艶さを漂わせている。往時この石窟内は、すべてこのような壁画に覆われていたというから、さぞや絢爛豪華であったに違いない。
薄暗い石窟を出ると、眩い太陽に目を細めた。渓谷に茂る木々の緑も輝いている。鮮やかな色彩のパンジャービードレスを着た、女学生の一団が通り過ぎて行く。

   


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