赤砂岩の城壁で囲む城

ムガル帝国の権力の象徴でもあるアグラ城は、荘厳な構えである。赤黒い石を積んだ、高さ20メートルの城壁に囲まれている。
1564年から10年余りを費やして、アクバル帝によって造られた強固な城である。次世代のジャハーンギール帝の時代にも、城内に新たな宮殿やモスクが建てられた。
深い濠に架かる、南側のアマル・スィン門から城内へと入る。城の正門となっているのは、西側のデリー門である。でもその周辺は、インド陸軍が駐屯していて、一般には公開されていない。
城壁内には宮殿が建ち並んでおり、立木や芝生には、野生のリスが機敏に動き回っていた。
正面には「ジャハーンギール宮殿」が、どっしりと構えている。ここは、アクバル帝がジャハーンギールとその妃たちのために建てた宮殿だ。建築様式はヒンドゥ風だが、彫刻はイスラム風に出来ている。アクバル帝のヒンドゥとイスラムとの融合政策が、この建築に表われている。


100メートルほど先には、「マッチ・バワン」がある。「魚宮殿」の意で、一般接見室から貴賓接見室に通じる間にある宮殿だ。中央には水槽があり、ここに魚を泳がせて、宮廷人が楽しんでいたという。
アグラ城のほぼ真ん中にあるのが、「モーティー・マスジット」だ。シャー・ジャハーン帝が、1646年から7年間を費やして完成させた礼拝堂(マスジット)である。外壁は赤砂岩だが、内部は白と赤とグレイの大理石造りだ。「モーティー(真珠)」との名にふさわしい、深みのある美しさを称えている。赤砂岩は、冬暖かくて夏は涼しいので、よく使われたという。また大理石は、シャー・ジャハーン好みの石だったそうだ。


「囚われの塔(ムサンマン・ブルジュ)」は、ヤムナー河に面した場所にある。ここは、シャー・ジャハーンが幽閉された、八角形の塔である。シャー・ジャハーン自身が、愛妃ムムターズ・マハルのために造った塔だ。妃が、ヤムナー河の眺めを楽しめるようにとの配慮からだった。
しかし、妃が早く世を去ってしまった。皮肉なことに、後に息子のアウラングゼープ帝によって、シャー・ジャハーンはここに幽閉されてしまったのだ。
彼は、妃のために建てた廟であるタージ・マハルをここから眺めつつ、1666年にこの塔で、74歳の生涯を閉じたのだ。


かつて訪れたときは部屋の中まで入れたのだが、現在は入口の手前から、鉄柵で囲まれていて入れない。壁全体が、彩色豊かな象嵌に飾られている、華やかな部屋である。
脇の窓から、ヤムナー河を望む。くねって流れるやや下流の方の河縁に、白亜のタージ・マハルが浮き上がるように靄っていた。わたし自身が、シャー・ジャハーンになったつもりで、そんなファンタジーな光景をしばし眺めていた。



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